肝がん


肝がんとは

 肝がんは肝臓にできる悪性腫瘍の総称です。原発性肝がんの95%が肝細胞がん(hepatocellular carcinoma;HCC)ですので、ここでは特に肝がん≒HCCについてその特徴、診断や治療について御紹介します。 肝がんは慢性肝障害(例;ウイルス性肝炎、肝硬変)を基礎疾患に有していることがほとんどです。肝がんの日本肝癌研究会のデータ★1によれば、再発様式は多くが肝内の再発であることも報告されています。よって診断や治療選択にあたっては、肝臓の体力(予備能)に留意することが大切です。

(1)肝がんの疫学 わが国の2020年の肝がん(総数)の死亡者数は約25000人★2で、肺、大腸、胃、膵臓についで第5位です。死亡者数はここ数年減少傾向にありますが、これは併存するHCVなどのウイルス性肝炎の新規感染者の減少、および治療薬の進歩による治療効果改善などに寄るところが大きいと考えられています。しかし非ウイルス性の慢性肝疾患からの発がんも一定の割合であり、当院での2018年までの20年間の併存肝疾患の推移(図1)をみても、明らかにウイルス性肝疾患の減少、非ウイルス性肝疾患患者さんの比率が多くなっています。従来のウイルス性肝疾患患者さんだけでなく、男性、高齢、肝線維化の進展した方、糖尿病、肥満などはHCC発症のリスクがあるため、採血などで肝機能障害を併存している方は、定期的な検査をお勧めします(詳しくは当院消化器内科へご相談ください)。

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(2)サーベイランスと診断方法 肝がんには採血で調べることのできる特徴的な腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)があります。この2つのマーカーなどや、超音波、CT、MRIを用いた画像診断は車の両輪のように両方を行うことで、肝がんの拾い上げに役立ちます。日本肝臓学会の「肝がん診療ガイドライン」の「肝がんサーベイランスのアルゴリズム」(図2)(★3)では、HBV、HCV、あるいは肝硬変の患者さんは高危険群、中でもB型肝硬変、C型肝硬変の患者さんは超高危険群として腫瘍マーカーを含む採血と画像診断を定期的に行うことが推奨されています。 肝臓は消化管などの臓器のように内視鏡で直接内部観察をすることができません。そのため診断には造影剤を使った検査で特徴的なパターンを示すことを確認して診断していきます。前述の画像検査で肝臓に腫瘤影が疑われた場合は、造影剤を用いた血流診断、細胞診断を行って鑑別診断していきます。当院ではソナゾイドを用いた造影超音波、急速静注造影CT、EOB-MRI、および血管造影下のCT(CTA、CTAP)などを施行することが可能で、総合的に診断ならびに治療に結び付けることができます。またいったん肝がんで治療を受けた患者さんは再発の超高危険群でもあるため、上記の経過観察を引き続き積極的に行っています。

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(3)病期分類と治療選択  肝がんと診断された場合は、まずそのがんの広がり(臨床病期、ステージ)を評価します。国際分類(国際対がん連合:Union for International Cancer Control :UICC、第8版)のTMN分類★4(図3)や日本肝癌研究会が作成した原発性肝癌取り扱い規約、第6版★5(図4)に則って行います。実臨床では、冒頭に述べた通り肝がん患者さんは慢性肝疾患を併存していることが多いため、肝臓の体力(予備能)やおよび患者さんごとに年齢や全身状態、治療方法の安全性、再現性を加味して治療方針を検討します。わが国の日本肝臓学会の「肝がん診療ガイドライン」の「肝がん治療のアルゴリズム」★6(図5)に基づいて外科手術、ラジオ波焼灼療法などの経皮的穿刺治療、カテーテルを用いた動脈塞栓術、薬物療法、放射線療法などの治療方針を選択することが多いですが、最近はがんの進行度と肝障害度、全身状態を組み合わせた、いわゆる「総合ステージング」も用いられています。比較的よく用いられている分類として、バルセロナ臨床肝癌病期分類(Barcelona Clinic Liver Cancer (BCLC) staging)★7(図6)を示します。

肝がん03図3肝がん04図4肝がん05図5肝がん06図6

 

肝がんの治療方法について

肝がんの治療には従来は局所療法である外科切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)などの穿刺焼灼治療、カテーテルを用いた化学動脈塞栓療法(TACE)、放射線療法が治療の中心でした。しかし併存慢性肝疾患の変化に伴い、やや臨床病期の進んだ状態で診断されるケースも一定数あり、また一方でこうした進行肝がんに対して全身療法というべきがん薬物療法の進歩はここ数年目覚ましいものがあります。
(1)外科切除 肝予備能、肝外転移、脈管侵襲、腫瘍数、腫瘍径の因子によって治療方針を決めます。 外科手術については、肝予備能をChild-Pugh分類という指標で分類し、Child-Pugh分類AまたはBの症例については①腫瘍数1~3個、腫瘍径3cm以内ならば外科切除またはラジオ波焼却療法(RFA)が選択され、②腫瘍数1~3個、腫瘍径3cm超なら第一選択として外科切除が選択されます。
(2)ラジオ波焼灼療法(Radiofrequency Ablation:RFA) 腫瘍に電極針を刺してラジオ波波長の通電をすることにより、腫瘍を焼灼・壊死させる治療法です。比較的小さくかつ体表から超音波観察下に穿刺可能な病変に対するRFAの長期成績は手術と同等であることが示されたため、肝予備能の悪い方、高齢の患者さんや全身合併症等で手術の危険性が高い方のよい選択になります。
(3)経カテーテル的化学動脈塞栓療法(Transarterial Chemoembolization:TACE) 肝がんを栄養する肝動脈を通じて抗がん剤と塞栓剤を注入することで、壊死させる治療です。複数の病変に対しても治療ができることから、手術やRFAが適応となりにくい多発病変などが治療適応となります。肝機能が悪い場合や腫瘍が広範にわたる場合は、抗がん剤のみを注入する動注化学療法を行うこともあります。
(4)がん薬物療法 2010年より進行肝がんに対する分子標的薬(sorafenib:ネクサバール)が生存期間を有意に延ばす効果が認められ保険収載されて臨床で使用されるようになりました。その後2022年4月現在、免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用療法をはじめとして、6系統のがん薬物療法が臨床で使用可能となっています(図7)。近年TACEを繰り返すことで肝予備能が悪化し、治療適応が限られたり治療継続が困難な場合になったりすることから、前述のBCLC分類の中間段階をさらに細分化して、がん薬物療法を積極的に導入していく傾向にあります★8(図8)。

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当院の肝がんの診療体制、治療実績について

当院は国認定の地域がん診療連携拠点病院として、これらの治療法について、消化器内科、外科、放射線科、臨床病理科を中心に、それぞれの科ごとのカンファレンス、ならびに週1回合同カンファレンスを行い、また適宜多職種によるキャンサーボードを行いつつ、患者さん一人ずつの治療方針の検討、決定を行っています。肝がんの診療には、日本肝臓学会 肝臓専門医3名、日本消化器病学会 消化器病専門医6名、日本がん治療医認定機構 がん治療認定医(内科)3名、日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医2名(1名は非常勤)の各専門医を中心に診療にあたっています。 2021年1~12月の実績 外科手術9件、RFA 2件、TACE 23件 がん薬物療法施行した患者さんは30名です。

(参考文献)

★1 日本肝癌研究会編:第 23 回全国原発性肝癌追跡調査報告
★2 国立がん研究センター:がん情報サービス
★3 日本肝臓学会編:肝癌診療ガイドライン2021年版第5版
★4 国際対がん連合:UICC編、TNM分類、第8版
★5 日本肝癌研究会編:原発性肝癌取り扱い規約、第6版 ★6 日本肝臓学会編:肝癌診療ガイドライン2021年版第5版
★7 Barcelona Clinic Liver Cancer (BCLC) staging; Llovet, JM et al, Hepatology 2020
★8 日本肝臓学会編:肝癌診療マニュアル2020年版

 

https://www.nihon-kangan.jp/
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/liver_i/index.html

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