外科


外科の対象疾患

  1.消化器外科

     ・悪性疾患:食道がん胃がん大腸がん肝がん胆道がん膵臓がんなど

     ・急性腹症:虫垂炎、腸閉塞、腹膜炎など

     ・その他:胆石症、総胆管結石、外傷など

  2.乳腺

     ・乳がん

  3.血管外科

     ・腹部大動脈瘤、胸部大動脈瘤、下肢血行障害、下肢静脈瘤など

  4.一般外科

     ・成人のソケイヘルニア、肛門および痔疾患、体表の腫瘍など

  5.小児外科

     ・小児の鼠径ヘルニア、臍ヘルニアなど

  6.乳腺外来

     ・乳腺疾患の検査診断

 

<がん診療>

 中京病院は国の指定した“地域がん診療連携拠点病院・がんゲノム連携病院”であり、特にがん診療に力を入れています。外科では頻度の高い胃がん・大腸がん・乳がんはもちろんのこと、肝胆膵のがんにおいてもガイドラインに則った標準的手術を行っています。当科における診療科横断的な治療の取組と愛知県内での連携体制についてご紹介いたします。また、当院では複数の診療科でキャンサーボードを開催して、多診療科で治療方針を決定して、外科/消化器内科または外科/泌尿器科などで共同手術も行っています。また、腫瘍内科/放射線科とも共同して集学的治療を行っています。

<院内外と密に連携した患者目線のがん診療体制>

 胃がん・大腸がん・乳がんにおいては手術後にかかりつけ医と中京病院の両方で患者さんの主治医となる“がん診療地域連携診療パス”を行っています。これは日々の診療はかかりつけ医で行い,半年毎に中京病院で定期検査を行っていくシステムです。これにより当院への頻繁な通院が不要となり、外来での長い待ち時間から開放されます。この地域連携パスでは愛知県がん診療協議会で作成した愛知県統一パスを使用しています。

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<診療内容>

1.消化器外科

【胃がん/大腸癌における腹腔鏡下の低侵襲手術】

 腹腔鏡を用いた手術により,従来行っていた開腹手術よりも傷が小さくなり手術後の回復が明らかに早くなりました.大腸がんや胃がんの患者さんに行っています。胃がんにおいては早期がんのみを対象としていましたが、開腹手術同等のリンパ節郭清を行うようになり従来の早期がんだけでなく一部の進行胃がんにも腹腔鏡手術を行っています。

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 大腸がんにおいて、特に左側結腸では腸管の血流維持を確保するため下腸間膜動脈(IMA)周囲の郭清は充分行いながら、IMA根部と左結腸動脈(LCA)を温存する手術を心がけています。これは予後にも貢献するという報告もあります。また、当院では縫合不全を予防するために腸管血流を術中に評価するICG蛍光内視鏡システムも行っています。

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 食道がん手術においては胸腔鏡を導入しています.食道癌の手術は食道を亜全摘し、頸部、胸部、腹部の3領域リンパ節を郭清し、胃や大腸を挙上して残った食道と吻合して再建するという高侵襲な手術です。特に反回神経麻痺や肺炎などの呼吸器合併症を起こす頻度が多く、重篤な合併症を起こすことがあります。胸腔内操作を胸腔鏡を用いて精細な画像で精緻な手術を胸壁を破壊せず小さな傷で行うことにより低侵襲な手術を行うことができます。これにより患者さんの体力の回復は早くなりました。2020年からこの方法を取り入れ、術後在院日数が39.6日(n=5)から17.5日(n=4)に減少しました。鏡視下(腹腔鏡・胸腔鏡)手術はかなり安全に行われるようになりましたが、病気の種類や患者さんの病状によっては困難な症例もまだまだたくさんあります。中京病院では十分な安全性を確認しながら、鏡視下(腹腔鏡・胸腔鏡)手術の適応を広げています。

【消化器内科と連携した消化器がん治療】

腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除術(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery; LECS)
 胃粘膜下腫瘍(胃の粘膜の下にできる腫瘍)を対象に行っている手術です。癌と異なり、リンパ節転移の可能性が少ない特徴がある腫瘍に対して行っています。この手術では胃の切除範囲は腫瘍のある部分だけの切除(局所切除)となります。この大きな特徴は、腹腔鏡手術の際に、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を併用することで胃の内側から腫瘍の切除範囲を正確に見極めることができる点です。この手法を用いることにより胃壁の切除を最小限にとどめることがでるため、可能な限り胃を大きく残すことができます。

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【術中内視鏡併用腹腔鏡下幽門側胃切除】

 最近では、できるだけ胃を温存できるように、症例によっては術中に病変口側の確認のため術中胃内視鏡の併用も行っています。この方法により、早期がんにおいては追加切除することなく至適な場所で切離することができます。また最近では、胃穹窿部を残すと食欲の減少を最小限に抑えられることが分かってきました。これは食欲を増進させる「グレリン」というホルモンが胃で分泌されるので、胃穹窿部の有無が食欲に与える影響は大きいと考えられています。つまり胃は切除する部分が大きいと、食欲が減るのかというとそうではありません。このため胃全摘と比較すると幽門側胃亜全摘は残胃が小さくても胃穹窿部からグレリンが分泌されるため、術後の体重減少が少ないと言われています(消化器外科学会教育講座引用)。術中内視鏡を併用することで、安易な胃全摘をさけて腹腔鏡下幽門側胃切除(亜全摘含む)は術後の生活の質に貢献しています。この手技は消化器内科と綿密に術中相談しながら行っています。

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術中内視鏡併用腹腔鏡下幽門側胃切除

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 腹腔鏡/胸腔手術はかなり安全に行われるようになりましたが、病気の種類や患者さんの病状によっては困難な症例もまだまだたくさんあります。中京病院では十分な安全性を確認しながら、の適応を広げています。肝・胆道・膵臓のがんにおいても,これらの領域の拡大手術も積極的に行っています。膵臓がん手術においては前方アプローチを用いて症例に応じて門脈合併切除血行再建も行っています。

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【集学的治療(化学療法→手術、化学放射線治療→手術)】

 

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また、消化器がんにおいては,がんの病変が広がって手術による切除が困難な患者さんもいます。このような場合でも化学療法または化学放射線治療(CRT)を行い、がんが小さくなり切除が可能となった場合はConversion Therapyといって根治的な病変の切除を行っています。大腸がんの肝転移症例などに行ってきましたが,局所進行直腸がんや局所進行胃がん/食道がんの症例にも行うようになり患者さんの予後の改善を目指しています。

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【泌尿器科と連携した腎細胞癌肝部下大静脈腫瘍栓手術】

 腎癌は静脈系に進展しやすいという特性を有しており,腎静脈から下大静脈内,時に右房内まで連続した腫瘍塞栓を形成します。臨床の現場では,このような患者に対して伝統的に腎摘除術および腫瘍塞栓摘除術が行われています(腎癌診療ガイドライン)。当院では下大静脈に進展した腎細胞がんに対して、外科泌尿器合同手術を2016年以降6例に行っています。術前および開腹時に腫瘍栓が肝静脈に及んでいないこと確認した上で、消化器外科が肝臓を後腹膜からの授動脱転および左右下大静脈靱帯および左右尾状葉の全ての短肝静脈の処理を行います。そして腫瘍栓の頭側の肝静脈尾側で下大静脈をテーピングします。その後は泌尿器科医が腎臓を授動して左右の腎静脈および腎静脈尾側の下大静脈をテーピングします。これらの静脈をクランプした状態で腎静脈を切開して腫瘍栓を引き抜くと同時に腎臓を摘出します。また、術中に肝静脈よりも頭側に腫瘍栓が進展していた場合に備えて、人工心肺などの体外循環を用いる方法がとれるように心臓血管外科が待機した状態で行っています。腎細胞癌下大静脈腫瘍栓の手術は高度な技術をもった消化器外科医・泌尿器科医で行う手術です。上記のように術前の画像診断よりも術中に腫瘍栓が進展している場合もあり、心臓血管外科のある病院で多診療科のチーム医療ができる病院でしかできません。

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2.乳腺外科

【ステレオガイド下マンモトーム生検】

 乳癌においてはマンモグラフィーでしかわからないような石灰化病変などではステレオガイド下マンモトーム生検を行っています。このため早期に発見される患者さんが増えました。

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【乳房切除後の乳房再建】

 また、早期乳がんであるにもかかわらず、病変の部位や範囲によっては乳房全摘が必要な場合もよくあります。このような患者さんでも、御希望に合わせて人工乳房による二期的再建や広背筋などの自家組織による一期的再建などを形成外科と協同で行っています。

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 最後にがんの治療は、技術の進歩や医学研究の成果とともに変化します。現時点で得られている科学的な根拠に基づいた最もよい治療のことを「標準治療」といいます。“地域がん診療連携拠点病院”である中京病院外科ではこの標準治療に準じた治療を行っています。

3.血管外科

【腹部動脈瘤/胸部大動脈瘤】

 腹部大動脈瘤は常に破裂の危険性を伴う疾患で、5㎝以上に拡張した瘤は手術適応になります。当科では破裂を未然に防ぐための待機手術はもちろんのこと、破裂例でも積極的に救命手術を行っています。最近では腹部を切らないステントグラフト挿入による治療も導入しています。胸部大動脈瘤にも病変によってはステントグラフトを行っています。

【閉塞性動脈硬化症/下肢静脈瘤】

 このほか、下肢血行障害に対する人工血管バイパス手術や血管内治療、下肢静脈瘤の手術も行っています。下肢静脈瘤はレーザー治療を積極的に行っています。 虚血性あるいは静脈瘤に伴う足部皮膚潰瘍については、フットケアチームとともに治療を行っています。

4.一般外科

【急性腹症】

 多くの場合良性の疾患ですが腹痛を伴い何らかの緊急処置が必要な病態を指します。頻度の高い疾患としては急性虫垂炎、十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎、絞扼性腸閉塞(腸管の循環障害を起こした腸閉塞)、急性胆のう炎、ヘルニア嵌頓(ヘルニア内容が出たまま戻らない状態)などが挙げられます。これら緊急性の高い疾患に対して、当科では24時間対応で診療に当たっています。

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      1. 急性虫垂炎 腹腔鏡手術を中心に行っています.症例に応じて単孔式手術も行っています。
      2. 急性胆嚢炎 当院では発症から早期の場合は急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン(Tokyo Guidelines (TG18)に準じて可能であれば早期腹腔鏡下胆嚢摘出術を行い入院期間の短縮をはかっています。ただし,ご高齢の患者さんたちや併存疾患によっては経皮的経肝胆のうドレナージ(PTGBD)を行い、炎症を一旦沈静化させてから、時間を置いて待機的に腹腔鏡下胆のう摘出術を行っています。

その他

(1)成人ソケイヘルニア
 俗にいう「脱腸」のことです。手術でしか治りません。ヘルニアの穴を塞ぐために人工補強材(メッシュ)を用いることが主流です。当院では2015年から成人ソケイヘルニアに対して鏡視下手術を導入しました。年間50例以上に行っています。腹腔内アプローチ(TAPP)法も腹膜外アプローチ(TEP)法も症状に合わせて使い分けています。TEP法を行える施設は多くはありませんが、腹部手術既往のある患者にも可能であるため当院では積極的に行っています。

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(2)肛門疾患(内痔核など)
 よくある肛門疾患としては内痔核(俗にいう「いぼ痔」)に対して、当院では内痔核硬化療法(ALTA療法)を日帰り外来治療で行っています。内痔核硬化療法(ALTA療法)とは、痔に直接、注射(ジオン注)を打って血管に炎症を起こして痔をつぶすものです。メスを使わない、切らずに治す痔の治療法です。

5.小児外科外来

名古屋大学の小児外科医が第1・3・5水曜日午前に診療しています。

・小児鼠径ヘルニア

 腸などの内臓の一部が本来あるべき位置を越えて皮膚の下に飛び出てしまう疾患で、脱腸とも呼ばれます。小児外科を受診される患者さんの中で一番多い疾患といわれ、子どもの約30人に1人は鼠径ヘルニアを発症するとされています。大人の鼠経ヘルニアは、加齢に伴う筋肉の低下が原因で生じます。そのため鼠径部を閉じるだけでは再発してしまいますが,小児鼠径ヘルニアは発生学的な要因によって発症するため、生じたトンネルを閉じるだけで治療できます。  当院の小児鼠径ヘルニアの手術は,鼠径部を切開する開腹手術(Potts法)と傷跡がほとんど残らない単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(SILPEC法)を名古屋大学の小児外科医が行っています。

・Potts法

 小児鼠径ヘルニアの手術には、Potts法がよく用いられます。Potts法とは、鼠径部(足の付け根あたり)を約1~2cm切開し、袋状のヘルニア嚢(のう)を根元でしばり、臓器が飛び出さないようにする治療法です。Potts法は大人にはあまり行われていませんが、子どもの鼠径ヘルニア手術としてはスタンダードな方法とされています。

・単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(SILPEC法)

 おへそに1つの穴を開けて(単孔式)、その中に3㎜の細径内視鏡とSILPEC鉗子をいれて,Potts法と同様に袋状のヘルニア嚢(のう)を根元でしばり、臓器が飛び出さないようにする治療法です。この術式は体への負担が少なく、両側の鼠径部の治療を同時に行うことができるという特徴があります。手術成績は鼠径部切開と同等の水準で、術後の痛みや日常生活への影響も少ない方法です。

Potts法では、反対側のヘルニアの確認ができませんが,この方法は術中に反対側の確認を行い、予防的に手術を行うことができます。

6.乳腺外来

トピックス

月曜日午後に女性乳腺専門医による診療を行っています。女性医師の診察を希望される場合は予約して受診してください。また、木曜日午前に名大乳腺外科医師による診療を行っています。

治療実績

手術内容 2019年 2020年 2021年 2022年
件   数 うち
鏡視下手術
件   数 うち
鏡視下手術
件   数 うち
鏡視下手術
件   数 うち
鏡視下手術
虫垂炎 60 55 57 57 68 66 57 52
ヘルニア(大人) 140 45 125 50 133 53 122 34
ヘルニア(小人) 13 13 8 8 9 9 8 8
痔疾手術 20 17 13 17
良性胆道疾患 95 87 85 76 76 64 97 92
イレウス 32 12 21 7 18 7 30 10
食道切除 3 2 6 1 5 5 1 1
胃切除 42 11 40 10 31

10(* 1)

39 22(* 2)
結腸切除 101 52 84 41 80 53 97 59
直腸切除 26 19 41 24 58 28 37 22(** 1)
大腸全摘 1 1 6 2 2 2
内分泌外科手術 8 16 2
膵頭十二指腸切除 13 15 12 10
膵体尾部切除 5 1 4 8
肝切除 21 11 24 24 2
胆道再建を伴う肝切除 1 0 2 1
その他緊急手術 27 4 52 51 5 67 13
乳癌手術

73

(⁂ 4)

35

(⁂ 2)

54

(⁂ 5)

74

(⁂ 6)

ヘルニア以外の
小児外科全麻手術
6 3 8 8 4 4
いずれにも該当しない
全麻手術
73 16 76 97 19 72 2
合計 760 317 699 276 747 327 767 321
血管外科 2019年 2020年 2021年 2022年
件   数 うち
血管内治療
件   数 うち
血管内治療
件   数 うち
血管内治療
件   数 うち
血管内治療
四肢静脈手術 47 43 23 23 15 15 7 7
※1 動脈バイパス 44 43 58 58 64 62 16 16
動脈瘤手術 31 26 46 43 45 43 46 43
他の血管手術 13 0 14 0 12 0 7
合計 135 112 141 124 136 120 76 66
2019年 2020年 2021年 2022年
総手術件数 952 822 1006 966
全麻手術件数 694 644 687 709
全麻緊急手術 168 189 178 169
脊椎麻酔/局所麻酔 258 178 319 257
()内は右記術式の再掲 *噴門側胃切除 **ロボット手術  ⁂乳房再建

 

医師スタッフ紹介

外科の医師・スタッフ紹介はこちらからご覧ください。

外来担当表

外科の外来担当医表はこちらからご覧ください。

当科の学会施設認定

    • 日本外科学会専門医制度修練施設
    • 日本消化器外科学会専門医修練施設
    • 日本脈管学会認定研修指定施設
    • 日本乳がん学会関連施設
    • 日本静脈経腸栄養学会認定教育施設
    • 日本胆道学会認定指導施設
    • 日本腹部救急医学会教育認定施設
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