熱傷センター

病院屋上にあるヘリポートに、ドクターヘリで重症熱傷患者が搬送されてきます。

沿革・歴史

 当院の熱傷診療は,井澤洋平皮膚科部長(のち院長)が「多くの熱傷瘢痕患者が再建しようにも非熱傷皮膚が急性期の採皮で傷つけられてどうにもならず,熱傷急性期の治療を自分たちで何とかしよう」との想いで開始した1969年にまで遡ります(井澤洋平:熱傷患者を治す.王木会編,2008)。1972年にⅢ度80%の小児熱傷患者が入院し,スキンバンク制度がなかった当時,新聞報道によって230名から善意の皮膚が提供され,allograftを用いた数回の手術により救命されました。当時当院形成外科のスタッフであった青山久愛知医科大学教授退任記念業績集には「その後,やけど患者が殺到して,週3回は泊まり込んで総計1万人以上の熱傷患者の治療を行った」と記されており,この症例を契機に東海地方から多くの熱傷患者を受入れるようになりました。1991年には救急科が新設され,広範囲熱傷や気道熱傷を合併し全身管理を要する重症熱傷患者は救急科が,一般病棟で入院する熱傷患者は形成外科・皮膚科が主科として担当する方式となり現在に至っています。

診療内容

 熱傷治療は救急科・形成外科・皮膚科・口腔外科・リハビリテーション科など、複数の診療科・多職種から成るチーム医療で行っています。重症熱傷患者は救命救急センター内にある熱傷センターに入室となり,ショック期と敗血症期を脱して安定するまでの数週間,救急科が全身管理と同時に焼痂切除・植皮術を行います。この間,手術には麻酔科とともに形成外科・皮膚科の医師も加わり,早期よりのリハビリ・栄養管理・感染対策が院内各チームの協力によってなされます。急性期を脱すると担当が形成外科に引き継がれ,社会復帰を目指した治療と訓練が一般病棟入院中および退院後の外来で行われます。
 焼けてしまった皮膚はつっぱるため、手の熱傷では握る、つまむ動作ができなくなり、肩の熱傷では肩が上がらなくなり、顔の熱傷では口や目が開閉困難となったりしますが、形成外科ではこれらの日常生活に支障を来す機能障害の治療を行います。これらの部位の手術に救急科と協力して参加して患者さんの治療に当たり早期の社会復帰を目指します。
 この他,熱傷センターや病棟の看護スタッフだけでなく,精神面の治療・サポートには精神科が,火災で住居焼失など退院に向けた諸問題にはMSWや地域医療連携室が,四肢切断時のコンサルトに整形外科が,敗血症期の早期菌同定に検査室が協力するなど多数の病院スタッフが必要なチームを組み,1人の重症熱傷患者の救命・社会復帰に向けて努力しています。

救急科・上山部長(左)を始め、熱傷医療に関わる多職種の医療スタッフです。

熱傷の最新医療

 皮膚の深部にまで達する重症熱傷の基本的な治療は、受傷した皮膚を手術で除去した後に、同部位に健康な皮膚を植皮する方法が一般的です。しかし広範囲熱傷の場合、健康な皮膚の面積が少なくなるため植皮術が困難となり、合併症の発症や死亡率は非常に高くなります。そのため、これまでは患者さんの家族から提供していただいた皮膚や、またはスキンバンクに凍結保存してある亡くなった患者から提供していただいた皮膚を患者に植皮する方法などが行われてきました。さらに2009年に自家培養表皮が保険収載され、本邦における広範囲熱傷の治療は大きく変化しました。自家培養表皮とは、患者の健康的な皮膚を一部摘出し特殊な方法で培養することで、大きな表皮を作成する再生医療のことです。現在、この培養表皮の生着率を向上させる為に各施設から様々な工夫が報告されています。例えば、培養表皮は皮膚の真皮部分の上に生着させる必要性があるため、この表皮と真皮との結合を強固とする物質(anchoring fibrilやタイプⅣコラーゲン、ラミニンなど)の発現を促進するために、様々な細胞に分化できる能力を持つ幹細胞を併用する最先端の研究も行われています。今後もiPS細胞などの再生医療の進歩に伴い、熱傷患者の治療方針は大きく変化することが予想され、重症患者の救命率の向上が期待されています。

リハビリテーションの役割

 リハビリテーション科を中心に、熱傷の状態に応じて出来るだけ早期からリハビリテーションを行っています。早期からリハビリテーションが介入することで、熱傷による関節拘縮や皮膚の移植後の短縮を予防します。複数回手術が必要な事もあり、段階的に実用的な四肢機能の早期獲得を目指します。また、必要に応じて、上肢のスプリントや自助具の作成も行っています。
 広範囲の熱傷や気道熱傷を伴った場合では、全身状態の悪化、気管の閉塞が懸念されるため、挿管・人工呼吸管理となる事が多くあります。その場合も、早期から呼吸リハビリテーションを行い呼吸器合併症の予防を行っています。挿管・人工呼吸管理から離脱すると、より早期に安全に経口摂取が開始できるように評価・訓練を実施しています。栄養の管理は主治医・栄養サポートチーム(NST)と共同で進めています。顔面熱傷で口の動きが制限されるなど話しにくい場合、手術後の嗄声などがある場合も、話すこと、声の質の評価・訓練を実施しています。出来る限り早期の日常生活、社会生活への復帰をめざし、リハビリテーションを行っています。

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