経カテーテル肺動脈弁留置術(TPVI) HarmonyTM弁での治療

JCHO中京病院は本治療において日本の初期施設として認定されました。この治療セット自体は2021年3月に北米でFDA承認を受け、同年8月には日本のPMDAでも承認されました。その後、治療セットに修正を要し、実際の治療は2023年3月から開始され、当院では同年6月に治療を開始して年間3-4例の患者さんに受けて頂いております。

●本治療の意義

かつてファロー四徴症や肺動脈弁狭窄などの先天性心疾患は乳児、幼児期に「根治術」を受けて終わりと考えられていました。しかし、その後の成長期、成人期に遺残病変による負担が積み重なり再手術を受ける必要が出てきました。その為に「根治術」といった表現から「修復術」へと変わっていきました。これは元から困っていた症状は手術によってきちんと改善されるも、その後も成長に伴いメンテナンスが必要であると解釈していただければ良いでしょう。遺残病変の1つとして、狭窄していた肺動脈弁を切開した結果生じる逆流(肺動脈弁逆流)が年月を経て手前の右心室筋を引き延ばし心機能低下に至り、時には突然死にも繋がる病態となります。それに対して肺動脈弁を生体弁に置き換える治療を行うのですが、その耐久性も10-15年ほどと考えられています。その都度、開胸、開心手術を繰り返し受けるのは社会復帰までの負担などが大きいために、経カテーテルにアプローチ出来る本治療が開発されました。

●デバイスの特徴

対象は成人体型となっており、留置する肺動脈弁径は22mmと25mmの2種類です。

カテーテル先端から出始めると自然に拡張し始める鼓状のフレームの中央に生体弁が備わっています。留置する肺動脈弁は右心室の流出部から主肺動脈を越えて左右肺動脈に分岐する間に位置させます。この流出部から左右肺動脈分岐部までの形態が術後の患者さんそれぞれに多種多様となっています。自己拡張フレームは、それらの形態にフィットするように作られています。それでもフィットしない形態の患者さんには不向きとなる場合があります。

●治療に至るまで

循環器科、心臓血管外科、小児循環器科ではハートチームを形成し患者さんごとのカンファレンスを行っています。治療を必要とする状態であるか否かは、症状や心臓MRIでの心臓機能評価を参考にします。先に行われた手術内容(当院以外での手術の場合も)を検討し、チームで再開胸手術と比較して経カテーテル治療が望ましいと判断されると、造影CTを用いて患者さんの右室流出路にHarmonyTMがフィットするかなどを確認します。それらをクリアした後に患者様さんに説明して同意を得られると治療計画されます。

●治療の実際

治療は心臓血管造影室にて麻酔科による全身麻酔下に行います。多くの場合、①大腿静脈に26Fr(9mm弱)のシースを進めて、②その中にHarmonyTMの装填されたデリバリーシステムを病変部まで通して、位置決めを行って③→④展開留置してきます。 多くの場合、大腿静脈穿刺からシース抜去までの治療時間は、およそ1時間半から2時間です。翌日には穿刺部の出血に注意しつつ歩行を始めて頂いており、3日目に独歩退院していただけます。

●今後の展望

始動したばかりの治療ですので今後も慎重な観察を要しますが、安定した滑り出しをしており低侵襲かつ早期社会復帰を可能に出来る治療となっています。これとは別に当院も含めて人工導管を用いた右室流出路修復術後の患者さんも多くいらっしゃいますが、これらの患者さんには本治療は適応出来ません。そういった問題も次世代までには解決されていくでしょう。