診療・各部門
放射線治療とは
放射線治療とは、患部に放射線を照射して、細胞のDNAに損傷を与え、がん細胞を死滅させる局所的な治療法です。現在では、手術や薬物療法(抗がん剤治療)と並ぶ、がんの主要な治療法の一つです。単独で行われることもありますが、これらの治療法を組み合わせて行うこともあります。
放射線治療の方法と種類
放射線治療には、体の外から放射線を照射する外照射と、放射性物質を体内に挿入・投与し体内から照射する内部照射がありますが、がんの治療で現在最も多く使われている放射線治療は外照射となります。
当院の外照射は高エネルギーX線と電子線を用い、ほぼ全ての悪性腫瘍と一部の良性疾患に対する治療を行っています。内照射は、前立腺癌に対するヨウ素125密封小線源治療、転移性骨腫瘍を有する去勢抵抗性前立腺癌に対するラジウム223治療(ゾーフィゴ®)、CD20陽性の難治性悪性リンパ腫に対するイットリウム90治療(ゼヴァリン®)、甲状腺癌や甲状腺機能亢進症に対するヨウ素131治療を行っています。
当院の外照射
当院では、1970年よりコバルト照射装置による放射線治療を開始し、1996年より『Mevatron(メバトロン) Siemens社』、2008年より『Trilogy(トリロジー) Varian社』と治療装置をリニアックに更新し、放射線治療を行ってきました。
2023年11月には新たに建設した放射線治療棟に4代目となる最新の放射線治療装置『True Beam(トゥルービーム) Varian社』を導入し、様々な疾患に対し幅広い放射線治療を行っています。
放射線治療では、がん細胞のみに放射線を照射するのが理想ですが、現実にはがん周囲の正常な組織にも放射線が照射されるため、放射線による副作用や合併症が起こります。当院の治療装置は、正常組織にあたる放射線量を極力少なくし、がん組織に集中して放射線を照射する高精度放射線治療が可能となっています。
当院では、一般的な放射線治療のほか、IMRT(強度変調放射線治療)、IGRT(画像誘導放射線治療)、SRS/SRT(定位放射線治療)といった高精度放射線治療を積極的に行っています。また、呼吸によって大きく動く腫瘍に対して、呼吸同期システムを用いた呼吸同期照射(迎撃法)も行っています。
IMRT(強度変調放射線治療)
IMRTとは、放射線治療計画装置(専用コンピュータ)を駆使した線量計算により、がん組織にはがんの形状に一致した集中性の高い放射線量を与え、隣接する正常組織には放射線量を低く抑えることを可能にした最新の照射方法です。この方法により腫瘍制御率の向上や副作用の軽減が期待されています。
当院では、従来の固定照射型IMRTだけでなく、回転照射型IMRTであるVMATを主に行っています。VMATはIMRTと同等以上の放射線の分布が得られるとされています。
IGRT(画像誘導放射線治療)
当院の放射線治療装置True Beam(トゥルービーム)にはOBI(On Board Imager)が搭載され、治療姿勢のままX線透視やコーンビームCTの撮像が出来ます。これらの画像を用いて治療を行うことで、より位置精度が高く、より再現性の高い放射線治療が可能となっています。
SRS/SRT(定位放射線治療)
定位放射線治療とは、小さな病変に対し多方向から放射線を集中させて照射する方法で、通常の放射線治療と比較し、多くの放射線量を病変に照射し、かつ周囲の正常組織への線量を極力減少させることが可能です。
早期の原発性肺がんや少数個の小さな転移性肺がん、同様の原発性肝がんや転移性肝がん、少数個の小さな転移性脳腫瘍の患者さんがこの治療の適応となります。
当院の取り組み① 「前立腺がんに対する放射線治療の合併症を減らす」
前立腺がんに対する放射線治療は、IMRT、陽子線治療、重粒子線治療、ヨウ素125密封小線源治療など、多くの選択肢がありますが、いずれの治療においても晩期合併症として放射線直腸炎が問題となります。前立腺の背中側に直腸がありますが、前立腺と直腸の距離は非常に近いため、直腸の一部にも高い放射線量が照射され、放射線直腸炎が起こります。晩期合併症とは、放射線治療終了後半年以降に見られるもので、放射線直腸炎は数年~5年以上経過しても発症することが報告されています。
この放射線直腸炎を減らす取り組みとして、当院では愛知県内では2番目となる2018年9月より『Space OAR®』システムを導入しています。前立腺と直腸の間にゲル状の物質を細い針を用いて挿入し、前立腺と直腸の距離を広げ、直腸への線量を低減することで、放射線直腸炎の発症を大幅に減らすことが可能になりました。
当院では、ヨウ素125密封小線源治療を受けられる患者さん全員に対して、IMRTを受けられる患者さんにはSpace OAR®システムの適応*があり、かつご希望のある患者さんに対して行っています。
主な適応*:直腸側にがんの浸潤がないこと、前立腺と直腸の間に強い癒着がないこと
Space OARは留置後3ヶ月経過すると分解・吸収され、6~12ヶ月後には消失します。
当院の取り組み② 「前立腺がんや乳がんに対する放射線治療の治療期間を短くする」
放射線治療は手術や薬物療法に比べ体への負担が少ないことがメリットですが、一般的な放射線治療における治療期間の長さはデメリットとされています。放射線を照射する技術の進歩もあり、最近では1回の放射線量を増やし治療回数を減らしても、一部のがんにおいては治療成績や副作用・合併症に差がないことが分かってきました。欧米や日本の治療指針(ガイドライン)では、限局性前立腺がんの放射線治療や一部の乳がんの術後放射線治療において、治療回数を減らした放射線治療(少数分割または寡分割照射)も推奨されています。
これを受けて、当院では前立腺がんや一部の乳がん患者さんに対する放射線治療の治療期間を短くする取り組みを2022年より開始しています。前立腺がんの場合、これまで33~34回(7週間)の放射線治療を行ってきましたが、28回(6週間弱)または20回(4週間)の治療も可能です。乳房部分切除後の乳がんの場合、これまで25または30回(5または6週間)の術後放射線治療を行ってきましたが、17または21回(4週間前後)の治療も可能です。
適応があり、かつご希望のある患者さんには、担当医より治療の選択肢として提示をさせていただきます。
当院からのメッセージ
当院の放射線治療部門は、放射線治療医2名(うち治療専門医1名)、診療放射線技師3名(放射線治療専門技師2名、放射線治療品質管理士3名、医学物理士2名)、専任看護師1名(がん放射線療法看護認定看護師1名)、事務1名、受付1名のチーム体制で、日々の放射線治療を行っています。
高度で正確な治療はもちろんですが、治療期間を出来るだけ安楽に過ごしていただき、日々の生活と放射線治療を両立できるように、患者さんお一人お一人に合わせた支援を提供すべく、スタッフ一丸となって努力してまいります。