診療・各部門
乳がんとは
乳がんは乳腺の中の乳管や小葉という組織の内腔を裏打ちしている上皮細胞から発生します。他の臓器のがんと比べ比較的ゆっくりと増殖するものが多いのですが、時間とともに腋窩のリンパ節に転移を始めます。さらに鎖骨上や頚部のリンパ節、肺、骨、肝、脳などに転移を来たし生命を脅かすようになります。30歳代後半から増え始め、50歳代でピークに達します。
乳がんは女性のがん罹患数(がんと診断された患者さんの人数)第1位の疾患です。しかし、その他の臓器のがんの5年生存率が60%前後であるのに対して乳がんは80~90%の5年生存率です。ちまり、乳がんに罹ってもお亡くなりになる患者さんは他の部位のがんに比べて少ないと言えます。
症状はほとんどがしこりの自覚ですが、最近ではマンモグラフィや超音波検査による検診が有効とされています。症状がある場合は病院へ、症状のない場合は検診センターなどで定期的なチェックをお勧めします。
検査診断(MMG/US/針生検/マンモトーム生検など)
乳がん検査の代表的なものとしてマンモグラフィー(MMG)と乳腺超音波検査(US)があります。乳がんの死亡率を減少させることが科学的に認められ、乳がん検診として推奨できる検診方法は「乳房X線検査(マンモグラフィ)単独法」です。しかし、マンモグラフィ検診に超音波検査を追加することにより,乳がん発見率は上昇します。これにより将来の予後の改善が期待されています。
視触診/マンモグラフィ/超音波検査で疑わしい場合には、穿刺吸引細胞診(細い針を直接刺して細胞成分を吸引する方法)や組織診(局所麻酔下に組織を一部切除する方法)で顕微鏡による病理検査をおこない確定診断します。当院では画像ガイド(ステレオ、超音波)で使用する乳房専用吸引式組織生検システム:マンモトーム生検が行えます。このほか、病変の広がりを調べるために骨シンチグラフィ、CT、MRIなど画像診断をおこなうこともあります。
治療(手術/乳房再建術、薬物療法)
【手術】
乳がんの治療は、遠隔転移していることが明らかな場合を除き、がんを手術によって切除することが中心です。主な手術には、「乳房部分切除術(乳房温存手術)」と「乳房全切除術」とがあります。これに腋窩リンパ節切除を加えておこなうことが一般的です。乳房温存手術では術後に残存乳房に対する放射線治療を追加しています。当院ではセンチネルリンパ節(乳がんが最初に転移すると考えられているリンパ節)を同定した上で、転移がなければ腋窩リンパ節切除を省略する方法を採用しています。また、乳房切除を行う場合、乳房再建の希望がある方には当院の形成外科と共同で手術を行っています。
【薬物療法】
薬物療法はがんを治したり、あるいは、がんの進行を抑えたり、症状をやわらげたりする治療です。乳がんに対する薬物療法で用いられる薬には、ホルモン療法薬、分子標的薬、化学療法があります。薬物療法には、以下の三つの目的があり、がんのサブタイプ、病期(ステージ)、リスクなどに応じて行われます。
- ① 再発の危険性を下げる(術前薬物療法・術後薬物療法)
- ② 手術前にがんを小さくする(術前薬物療法)
- ③ 手術が困難な進行がんや再発に対して延命や症状を緩和する
<サブタイプ分類と薬物療法> 乳がんの分類には、病期分類に加え、がん細胞の特徴によるサブタイプ分類があります。サブタイプ分類は、薬物療法を行う際にどの薬が適しているかを選ぶ参考にするためのものです。
(1)ホルモン受容体陽性乳がん ホルモン受容体陽性(女性ホルモンにより増殖する性質をもつこと)を「ルミナル」といい、ホルモン療法薬の効果が期待できます。がん細胞が増えるスピードが遅い(HER2陰性、Ki67が低値)という特徴をもつ場合には、ホルモン療法薬が治療の第一選択になります。がん細胞が増えるスピードが速い(Ki67が高値)という特徴をもつ場合には、ホルモン療法薬に加え細胞障害性抗がん薬も使います。
(2)HER2陽性乳がん HER2タンパクをもっている乳がんには、分子標的薬による治療を行います。原則として、細胞障害性抗がん薬と組み合わせて使います。
(3)ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん) トリプルネガティブは、3つの陰性(エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性)を意味します。女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)によって増殖する性質をもたず、かつ、がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクをもっていないという特徴があります。細胞障害性抗がん薬によって治療します。
遺伝性乳癌について
乳がんの5%~10%は遺伝が原因と考えられています。遺伝性の乳がんにもいくつか種類がありますが、現在明らかになっている中で最も多いのが「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」です。遺伝性乳がん卵巣がん症候群とは、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子という私たち誰もが持っている遺伝子に生まれつき変異がある状態をいいます。
【遺伝性乳がん卵巣がん症候群の特徴】
- ① 乳がんの発症リスクが6~12倍に高まる
- ② 若い年齢での発症(30代~40代前半での発症が多い)
- ③ 両方の乳房にがんができやすい
- ④ 卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)の発症リスクが高まる
- ⑤ 男性乳がん、すい臓がん、前立腺がんの発症リスクが高まる
BRCA1/2遺伝子の変異は、性別に関係なく50%の確率で親から子に引き継がれます。BRCA1/2遺伝子に変異があるかどうかを調べる検査を遺伝学的検査といいます。遺伝性乳がん卵巣がん症候群の診断には、この遺伝学的検査が必要です。これまでは全額自己負担で受けなくてはなりませんでしたが、2020年4月から一定の要件を満たせば、健康保険で遺伝学的検査を受けられることになりました。
【BRCA遺伝学的検査の健康保険適用(乳がんと診断された患者さん)】
- ① 45歳以下
- ② 60歳以下でトリプルネガティブタイプの乳がんを発症
- ③ 2個以上の原発性乳がん(再発は含めない)
- ④ 男性乳がん
- ⑤ 卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)
- ⑥ 3親等以内に乳がんや卵巣がんを発症した血縁者がいる
こうした要件に1つでも当てはまる場合です。健康保険が適用されれば、遺伝学的検査を6万円程度で受けることができます(3割負担の場合)。乳がんと診断されていない場合は、保険の適用にはなりません。
当院の乳がん治療の実績
手術内容 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
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乳がん手術件数 | 73 | 35 | 54 |