腎がんの詳細

診療・各部門

腎がんについて

疫学

腎がんの場所

腎がん(腎臓がん、腎細胞がん、などともいいます)とは、腎臓の実質と呼ばれる部分にある尿細管の細胞が、遺伝子の異常を起こしてがん化することが原因といわれています。また腎がんは全悪性腫瘍の2~3%を占めており、男女比は2~3:1で男性に多いです。腎癌の危険因子としては、肥満・喫煙・高血圧などがある他、フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病やバート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群などの遺伝性腎がんの家系では高率に腎がんを発症します。また透析患者では透析ではない人に比べて腎がんの発症率が数十倍高くなると言われています。
 一口に腎がんと言っても、その中には色々な種類(主にで顕微鏡で見た形で分類されます)があり、性質も様々です。最も多いのは淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がんで、腎がん全体の8割ぐらいを占めており、乳頭状腎細胞がん、嫌色素性腎細胞がんなどが続きます。腎臓に出来る悪性腫瘍の一つとして腎盂がんもありますが、これは腎盂・腎杯などの尿路上皮から発生するがんであり、性質が腎がんとは大きく異なる事から、腎がんには含まれません。また腎がんの一つである集合管がん(ベリニ管がん)は、尿細管ではなく集合管と言われる部分の細胞から発生すると言われており、腎盂がんに近い性質を持つとも言われています。腎がん治療薬の多くは、淡明細胞型の腎がんだけを対象として臨床試験が行われ、そこで有効性が認められたことで発売されています。つまり他の組織型の腎がんに対して効果が認められている薬剤はあまりないのが現状です。

症状

 初期には無症状であり、進行すると血尿や発熱・腰背部痛などを起こしてきますが、最近では無症状のうちに健診や他の病気の検査で偶然に発見される機会が増えています。またがんが血管の中を伸びていくことがあり、時にはがんが腎臓から心臓にまで達することもあります。転移は肺・リンパ節・骨・肝などに起こしやすく、転移した場所によって様々な症状が出ます。

代表的な腎がんの組織型
種類(組織型) 特徴
淡明細胞型腎細胞(たんめいさいぼうがたじんさいぼう)がん 最も多く、約80-85%を占めています。血流が豊富。一般的に腎がんといえば、この組織型を指すことが多いです。
乳頭状腎細胞(にゅうとうじょうじんさいぼう)がん 2番目に多く、10-15%ほどを占めます。透析患者では、これが最も多いと言われています。タイプ1とタイプ2があり、タイプ1は比較的予後良好とされています。
嫌色素性腎細胞(けんしきそせいじんさいぼう)がん 5%ほどを占めます。比較的予後良好なことが多いです。
紡錘細胞型腎細胞(ぼうすいさいぼうがたじんさいぼう)がん
肉腫様(にくしゅよう)がん
がん全体がこの組織型だけの純粋な腎がんは稀であり、他の組織型の腎がんに付随して認めることが多いです。予後不良。ニボルマブとイピリムマブの併用療法が比較的有効という報告があります。
集合管(しゅうごうかん)がん
ベリニ管(かん)がん
稀な組織型であり、予後不良。抗がん剤も効きにくいことが多いです。

※これらの他にも多くの種類があります。

腎がんの診断と治療

画像検査

腎がんの診断には、腹部超音波検査(エコー)や単純CTも有用ですが、急速造影CT(ダイナミックCT)が最も診断率が高いとされています。また血管内に伸びたがんや、周囲組織への浸潤の有無などを調べるためには、MRIが有用なこともあります。肺や肝などの他臓器やリンパへの転移の確認には、一般的に単純または造影CTが用いられますが、脳転移の確認には造影MRIが推奨されています。骨の転移の確認には骨シンチグラフィやMRIが行われますが、最近ではFDG-PET(ポジトロン断層画像)を行うことも増えています。

血液検査・尿検査

初期には血液検査や尿検査では異常が出ないことが多いため、これらの検査は腎がんの早期発見には不向きです。がんが進行すると、貧血、炎症反応上昇、高カルシウム血症、低タンパクなどが認められますが、尿検査ではがんが進行しても異常を認めないことも多いです。

生検(組織検査)

がんと診断するためには、一般的に最も確実性が高いものは組織を採取して顕微鏡で調べることです。組織を採取する方法として分かり易いのは手術で腫瘍を丸ごと摘出することですが、その他にも腫瘍をエコーやCTで確認しながら針で刺したり、腫瘍の一部のみを切除して組織を採取する方法があります。これを生検と言います。不要な手術を回避したり、適切な治療を選択できるなどのメリットがある一方、がん細胞の播種(ばらまいてしまう事)や他臓器損傷、サンプリングエラー※などの問題があるため、そのメリットとデメリットのバランスを考えて行う必要があります。腎がんの患者では、一般的には生検を行うことは少なく、手術が困難あるいは手術が適応ではない場合などに行われることが多いです。

※サンプリングエラーとは、組織採取時における問題点のことで、狙った組織が採取できていないことや、腫瘍組織が均一では無い時に診断・治療上重要な部分が採取できていないことなどがあります。

手術

がんの進行度によって治療法は異なりますが、一般的に腎がんに対しては放射線治療や薬物(抗がん剤)治療は効果が乏しいことが多いので、手術による切除が基本となります。以前はがんのある腎臓とその近くにある副腎を丸ごと切除する方法(根治的腎摘除術)が一般的でしたが、最近は、できるだけ腎臓の機能を温存するために、小さながんであれば腎臓の一部のみを切除する方法(腎部分切除術)を行う事が増えています。また副腎も切除しないことが多いです。手術の方法としては、根治的腎摘除術と腎部分切除術のどちらにも開放手術と腹腔鏡下手術があり、それぞれに長所と短所があります。そのうち、腹腔鏡下腎部分切除術は難易度が高い手術ですが、2016年にはロボット支援手術が認可され、手術成績が向上したとする報告が増えています。当院でもロボット支援腎部分切除術を導入しており、腹腔鏡下腎部分切除術は滅多に行われなくなりました。

薬物治療

手術だけでは治せないものや手術が不可能なものに対しては、薬物治療が行なわれます。腎がんは、従来からある殺細胞性の抗がん剤が効きにくく、長い間インターフェロンやインターロイキンという薬を使った免疫療法が行われていましたが、その奏効率は高くありませんでした。2008年になり分子標的薬とよばれる新しいタイプの抗がん剤が順次発売され、治療が大きく変わりました。分子標的薬には大きく分けてチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)とエムトール阻害剤(mTOR阻害剤)の二種類があります。主な働きとしては、がんが栄養を取り込むために血管を作ること(血管新生)を妨害することによって、がんを弱らせます。そのため血管新生阻害剤とも呼ばれています。分子標的薬の登場により免疫療法はあまり行われなくなりましたが、2016年に、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)と呼ばれる自分の免疫力を強化する抗がん剤が、腎がんに対しても使用可能となりました。ICIの様に、がんに対する免疫を強化する治療薬をがん免疫療法薬(Immuno-Oncology durg:I-O drug)ともいいます。2018年には、2種類のICIを併用する治療が認可され、より強力な免疫療法が可能となり、再び免疫療法が腎がんに対する薬物治療の主役になりつつあります。更に2019年末にはTKIとICIの併用療法も認可されました。これらの薬が、がんや患者さんの状態に合わせて使い分けられています。

TKI(チロシンキナーゼ阻害剤) 特徴

ソラフェニブ(ネクサバール®)
スニチニブ(スーテント®)
アキシチニブ(インライタ®)
パゾパニブ(ヴォトリエント®)
カボザンチニブ(カボメティクス
レンバチニブメシル酸塩(レンビマ®)

がんは自分の周りに新しい血管をたくさん作り(血管新生)、そこから栄養や酸素を取り込んで大きくなろうとする性質があります。TKIは血管新生阻害剤とも呼ばれ、この血管を潰してしまうことにより、がんへの栄養や酸素の供給を断ち、云わば兵糧攻めの様にして、がんを小さくさせる薬です。免疫的な作用が関与している可能性も考えられています。主な副作用としては高血圧、下痢、倦怠感、手足症候群、腎障害などがあります。
mTOR(エムトールまたはエムトア)阻害剤 特徴
エベロリムス(アフィニトール®)
テムシロリムス(トーリセル®)
mTOR蛋白は、がん細胞を初めとした多くの細胞内に存在しており、血管新生や細胞増殖、免疫調節など種々の作用を持っています。この蛋白の作用を抑えることで、抗がん作用を発揮します。一部の薬は結節性硬化症という遺伝子の病気にも用いられています。主な副作用として、間質性肺疾患、口内炎、蛋白尿、腎障害、脂質代謝異常、易感染性などがあります。
ICI(免疫チェックポイント阻害剤) 特徴
ニボルマブ(オプジーボ®)
イピリムマブ(ヤーボイ®)
ペンブロリズマブ(キイトルーダ®)
アベルマブ(バベンチオ®)
人間にはがん細胞や体内に入ってきた細菌・ウイルスなどを攻撃して排除する働きが備わっており、この働きを免疫といいます。ところが、がん細胞の中には免疫機構の一部を妨害しているものがいることが分かりました。ICIの作用は、このようながん細胞の機能を防ぐことで免疫力を強化し、がん細胞をやっつけてもらいます。ニボルマブ開発の元となる発見をした本庶佑先生は、2018年にノーベル賞を受賞されました。またICIは、がん免疫療法薬(I-O drug)とも呼ばれます。副作用としては、免疫が暴走することにより自分を攻撃してしまう自己免疫疾患と同じような事を起こすことがあります。

放射線治療

腎がんには放射線治療が効きにくいことから、根治療法(がんを完治させる)目的で行われる事は少なく、症状緩和や合併症予防などの姑息的治療のために行われることが多いです。脳転移に対しては、がんの状態にもよりますが、ガンマナイフという特殊な放射線治療を行うことがあり、脳転移摘出術と同等の効果が認められています。

当院では行っておりませんが、小さな腎がんに対しては、凍結療法やラジオ波焼灼などが行われることがあります。(ラジオ波焼灼は保険適応外)

当院の腎がん治療の実績

毎週、放射線科医および病理医と合同の検討会を行い、診断や治療方針などについて集学的に議論しています。

腎がんに対する手術は年間に約20~30例ほど行っており、腎盂尿管がんに対する手術や生体腎移植時の腎採取術なども含めると年間に40~50例ほど腎臓を摘出する手術をしています。腎摘除術の大半は腹腔鏡下手術で施行しており、早期がんに対しては部分切除術を行い、積極的に腎機能の温存にも努めています。腎部分切除術の大半はロボット支援手術で行っております。がんが血管内に伸びているような場合には、外科や心臓血管外科と合同で手術を行うこともあります。

保険適応となっている抗がん剤は全て使用可能となっており、患者さんの病状や希望などに沿って、使い分けています。

トピックス

2021年8月には、抗PD-1抗体であるオプジーボ®、TKI製剤であるカボメティクス®の併用療法が、根治切除不能または転移性の腎細胞癌を対象に承認されました。さらに2022年2月に免疫チェックポイント阻害剤のうち、抗PD-1抗体製剤であるキイトルーダ®とTKI製剤であるレンビマ®の併用療法が根治切除不能又は転移性の腎細胞癌の適応で、厚生労働省より承認を取得しました。