診療・各部門
前立腺がんとは
前立腺は男性の膀胱の下にある栗の実ぐらいの大きさの臓器であり、精液の主な成分の一つである前立腺液を分泌して精子の運動・保護に関与しています。前立腺から発生するがんを前立腺がんといい、欧米人に多く、アジア人には少ない傾向があります。しかし食生活の欧米化や高齢化に伴って年々増加しており、前立腺がん検診(PSA検診)の普及と相まって、2015年の統計では罹患者数は3位となっていますが、死亡率は低く2017年の統計で第6位です。前立腺がんは男性ホルモンに依存して大きくなる性質があります。
(右の図はクリックで拡大できます)
前立腺がんの診断
近年、前立腺がんは検診等でPSA値が高いことで発見されることが多いです。当院のデータによるPSA値と前立腺がんが診断される可能性について下の表をご覧ください。前立腺がんの症状としては前立腺肥大を伴っていると頻尿や排尿困難などを訴える方もありますが、無症状の方も多いです。骨転移を生じて腰痛などの精査で見つかることもありますが、最近は少なくなってきています。PSA値が高値だと、検尿や超音波検査、直腸診などの検査が施行されますが、がんを疑うにはMRIが一番すぐれています。がんが疑われた場合には、診断確定のために経直腸的前立腺生検を行います。(当院では必要に応じ、下半身麻酔下で経会陰的前立腺生検も行っています。)生検によりがんが確定されまたどのぐらい悪性かどうか(悪性度)が診断されます。その後がんのひろがり(進行度)を確認するために画像診断(CT・骨シンチグラフィーなど)を行い病期が決定されます。
中京病院データより
病期
病期は、TNM分類に基づいて判断されるのが一般的です。
- T(tumor)
- 「がんが前立腺のなかにとどまっているか、それとも周囲の 組織や臓器にまで広がっているか」を表します。直腸診とMRIにより決定されます。
- N(nodes)
- 「リンパ節転移があるかどうか」を表します。CTやMRIで診断されます。
- M(metastasis)
- 「離れた組織や臓器への転移があるかどうか」を表します。CT、MRIで診断されますが、前立腺がんは骨に転移しやすいので骨シンチグラフィーも施行されます。
また、病期はステージA~D(Ⅰ~Ⅳ期)という分類で表されることもあります。
B以降が検査によって見つかったがんです。A~Dの分類法では、A=ステージI・B=ステージII・C=ステージIII・D=ステージIVに該当します。
分類 | 内容 | |
---|---|---|
T1 | 直腸診でも画像検査でもがんは明らかにならず、前立腺肥大症や膀胱がんで手術を受けて偶然に発見された場合、もしくは針生検で確認された場合 | |
T1a | 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%以下にがんが発見される | |
T1b | 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%を超えた部分にがんが発見される | |
T1c | 針生検によってがんが確認される | |
T2 | 前立腺の中にとどまっているがん | |
T2a | 左右どちらかの1/2までにがんがとどまっている | |
T2b | 左右どちらかだけに1/2を超えるがんがある | |
T2c | 左右の両方にがんがある | |
T3 | 前立腺を覆う膜(被膜)を越えてがんが広がっている | |
T3a | 被膜の外にがんが広がっている(片方または左右両方、膀胱の一部) | |
T3b | 精のうにまでがんが及んでいる | |
T4 | 前立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁など)にがんが及んでいる | |
N0 | 所属リンパ節への転移はない | |
N1 | 所属リンパ節への転移がある | |
M0 | 遠隔転移はない | |
M1 | 遠隔転移がある |
分類 | 内容 |
---|---|
ステージA | 触診でも超音波検査でも発見不可能なごく小さな主要で、前立腺肥大症などの手術の際に、偶然に見つかったものを指します。 |
ステージB | 前立腺のなかにとどまっているものを指します。 |
ステージC | 前立腺被膜を越えて進展しているが転移はないものを指します。 |
ステージD | すでに転移がみられるものを指します。 |
悪性度
前立腺がんの細胞には、正常な細胞に近くて進行が遅いもの(高分化腺がん)と、正常細胞からかけ離れた性質の悪いもの(低分化腺がん)、そして両者の中間に位置するもの(中分化腺がん)があります。この組織型は、5段階に分けられています。グレード1が最もおとなしいがん、グレード5が最も悪性のがんです。しかし現在では前立腺がんの組織型はグレード3から5で診断されていることがほとんどです。
前立腺がんはしばしば同じ前立腺のなかに悪性度の異なるがんが発生します。そこで、生検で採取したがん細胞の組織構造を調べ、最も面積の大きい組織型と2番目に大きい組織型のグレードを足して、悪性度の判定に用います。
(右の図はクリックで拡大できます)
これがグリソンスコアと呼ばれるもので、グレード3とグレード4の組織があれば、スコアは「3+4=7」になります。つまり悪性度の最も低いスコア2から、最も高いスコア10まで、9段階に分類されていますが、現在では6から10までの5段階で分類されています。悪性度の判定基準は次の通りとなります。
- グリソンスコア 6
- 比較的進行の遅い高分化型の前立腺がん
- グリソンスコア 7
- 中等度の悪性度の前立腺がん
- グリソンスコア 8以上
- 悪性度の高い低分化の前立腺がん
リスク分類
治療方法を決めるときには、進行度だけでなく、この悪性度も非常に大切な情報です。前立腺がんは経過の多様ながんであるため、TNM分類、グリソンスコア、PSA値などを組み合わせて再発の可能性や生命予後などを推測するリスク分類も、何種類か考案され(NCCN分類など)、臨床の場で参考にされています。
当院における前立腺がんの治療
一般的な治療としては、がんが前立腺に限局している早期がんの場合には手術や放射線療法を、転移のある進行がんではホルモン療法をおこないます。手術療法としては、通常の開腹手術・傷の小さな小切開手術・腹腔鏡下手術などに加え、最近ではロボット手術(ダビンチ手術)が急速に普及しております。また放射線療法としてはIMRT(強度変調放射線治療)・小線源治療(ブラキセラピー)・粒子線(重粒子線や陽子線)治療などがあります。患者さんの状態や希望により、早期がんでもホルモン療法を行ったり、無治療経過観察をしている方もいます。早期前立腺がんの治療選択については下記の図をご覧ください。
ホルモン療法が効かなくなった方には、がん薬物療法(抗がん剤治療)を行うことがありますが、がん薬物療法については、患者さんの状況により通院で行うことも可能です。当院では、前立腺がんの治療方法として、粒子線(重粒子線または陽子線)治療を除くほとんどの治療が可能です。その分、かえって治療の選択に迷われる方もいらっしゃいますが、治療に納得できるように、泌尿器科医および放射線科医からできるだけ詳細な説明をさせて頂いております。疑問がありましたら、何でもお気軽にご相談ください。
当院の前立腺がん治療の実績
2021年はロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除手術(ダビンチ手術)が51件行われました。
トピックス
当初のホルモン治療が効かなくなった状態のがんを去勢抵抗性前立腺がんといいます。去勢抵抗性前立腺がんに対し、2021年より、ある特定の遺伝子変異(BRCA遺伝子の変異)を有する場合、新規の前立腺がん治療薬、オラパニブが使用可能となりました。